社宅アフェクション
昨日のことを思い返し、私はベッドから起き上がった。


佳乃……私も忘れかけていたことを、あの時、私に思い出させた。
“返して” その言葉の意味も理解できた。


「佳乃……ごめん………」


勝彦の中から記憶を消したのは、私だから。



…………………………………………………

「佳乃、泣いて……」
「ショックだったのは、大好きな人の記憶の中になかったことだけじゃないわ。勝彦くんが、大好きだったお母さんの存在すらも、その記憶から消してしまったこと……」
「勝彦のお母さん……?」


一瞬、頭の中に電流が走った気がした。小さい頃の私と勝彦の姿が頭をよぎった。
あの時の表情、会話…すべてが鮮明になって――――


「事故で……亡くなった………」
「…やっぱり真綾は知ってた。真綾、勝彦くんに何をしたの……?」
「私…私は………」

…………………………………………………



私は思い出したすべてを話した。夕日が沈みかけた公園で、勝彦と話した日のことを。
聞き終わった佳乃は、その場を離れていった。その時の佳乃の目が、私の心に突き刺さったまま。


いろんな感情がまざった目だった。


これで、忘れられないものが増えた。


佳乃の目と、直人のあの顔――――
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