社宅アフェクション
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「そうね。ちょうど、20分になったし。じゃあちょっと話をしましょうか。真綾?」


振り向くと、佳乃が不敵に笑っていた。


「そのために来たんだから、早めに始めてよ」
「じゃあ単刀直入に言うけど……勝彦くんを私に返して」
「へ?」


いや、意味が分からない。返してってどういうこと?奪ったつもりもないんだけど。


「言ってる意味がさっぱりなんですけど」
「でしょうね。いいわ、教えてあげる」


佳乃はふっと笑って、石造りの門に寄りかかった。そして、私の顔を見ずに話し始めた。


「真綾と勝彦くんは、世間的には幼なじみでしょ。でもね、それをいうなら私のほうが先……いいえ、私が幼なじみであり続けるはずだったのよ」
「え?どういうこと?佳乃が、勝彦と幼なじみ…?聞いたこと、ない」
「だって初めて話したもの」
「勝彦だってそんなこと一言も……」


高校で佳乃と会ってから、話す機会はいくらでもあったはずなのに。


「勝彦くんが話さないのも当たり前よ」


うつ向いたままの佳乃の表情は、はっきりとは見えない。


「だって勝彦くん、私のこと、全て覚えてないんだもの。私のことだけじゃないんだ。社宅に引っ越してしまう前のこと全部、忘れてしまっているから」


そう言った佳乃の顔は、涙で濡れていた。

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