社宅アフェクション
勝彦が去ったあとも、私はベンチから動けなかった。


どのくらい座ってただろう。


「真綾…ちゃん?どうしたんだい?こんな遅い時間に」
「え……あ、あぁ、おじさん……」


勝彦のお父さんだった。気づけば辺りは暗くて、いくら社宅の公園といっても、やっぱり一人でいるにはおかしい時間だった。


「何かあったのかい?」
「いえ、特に……」
「あ、勝彦がまた失礼なことしちゃったかな。ケンカとか…」
「ち、違います!何でもないです!失礼します!」


私は家に走った。勝彦のお父さんには知られたくない話を、さっきまでしてた。私は顔に出やすいから、だから極力会いたくなかった。



「ただいまっ!」


無駄に大きい声で家に入った。お母さんは特に勘がするどいから、少しでも元気なふりをしたほうがいいいと思って。
でも、誰の返事もない。


「家ん中真っ暗じゃん……あっ」


電話の留守録ボタンが光っていた。確認すると、1件。


「真綾?お風呂?まぁ、いいわ。あのね、お母さんもお父さんも急な残業入っちゃったのよ。帰り、何時になるか分からないから、コンビニでなんか買って食べてちょうだい。あ、私たちの分もよろしく~!やばっ、課長戻ってきた……じゃあね!」


ピーという機械音と18時56分というアナウンス。時計を見ると、1時間以上たっていた。


「微妙……」


コンビニに向かう途中に2人とすれ違う覚悟で、家を出た。
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