極上な恋のその先を。


「なにされたの?いじめられた?」

「え、ち、違うよ」


慌ててフルフルと首を振る。
梢ちゃんは不審そうな目をあたしに向けて、それからベンチの背にもたれかかった。


「渚。ちゃんと話さなきゃダメだからね?怖い怖いって、逃げてちゃ、ダメなんだからね?」

「……」


まるで、小さな子供に言ってるようなその口調に、あたしは俯いた。
ジワリ、と視界が滲み涙が零れ落ちそうになる。

必死に唇を噛みしめていると、梢ちゃんの隣から時東課長が顔を覗かせた。


「渚ちゃん」


来年。
ふたりは結婚が決まっている。

梢ちゃんといる時の時東課長は、あたしを”渚ちゃん”ってそう呼んだ。
昔、家庭教師でうちに来ていた時みたいに……。



見上げると、時東課長はいつものように穏やかな笑みを浮かべた。




「久遠は今、会社だよ」

「え?」



……。




「……渚?」


課長をジッと見上げていると、梢ちゃんがあたしの手をキュッと包み込んだ。



「幸せは、待ってるだけじゃなくて自分で……この手で掴み取るものでしょ?」

「……」


さらにその手に力を込めると、黒目がちの瞳をフワリと細めた。




「女の幸せは、特にね?」




―――女の、幸せ。

あたしにとっての幸せ……。




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