極上な恋のその先を。
「渚?」
その時だった。
聞き覚えのある声がして、ゆっくりと顔を上げた。
真っ黒な長い髪がサラリと風に揺れて。
黒目がちの瞳があたしを覗き込んだ。
「どうしたのよ、渚」
「……梢ちゃん?」
なんで、梢ちゃんが……。
それは、あたしのたったひとりの姉だった。
細くてスタイルもよくて、いわゆるクール美人の姉・梢(こずえ)。
その姉の後ろから、時東課長も顔を覗かせた。
わわ。
かっこ悪いとこ、見られちゃったな……。
あたしは慌てて涙をぬぐうと、ニコリと笑顔を作った。
「ちょっと色々考え事しちゃって。あはは」
安心させるように笑ったつもりだった。
でも、それが逆に気に障ったようで。
梢ちゃんはその綺麗な眉間にグッとシワを寄せた。
「……あのね、ごまかしたってダメだからね?」
「……」
う。
そうだ。姉には何も隠し事は出来ない。
小さい頃からそうだった。
俯いたあたしの隣に座ると、梢ちゃんはため息まじりに言った。
「どーせ、久遠とか言う人のせいなんでしょ?」
「え?」
まさか姉の口からセンパイの名前が出ると思わなくて、ギョッと目を見張る。
あたしの反応を見た梢ちゃんは、さらに深いため息をついた。
「やっぱり」
ハッと見上げると、時東課長が小さく苦笑した。
……課長だ……。
きっと梢ちゃん、無理矢理聞いたんだ……。