Sweet Rain
「あの」

その時、僕らの会話を黙って聞いていた彼女が初めて口をはさんだ。

「あの、私は、いいと思います」

「え?」

「尚樹さんの提案に、賛成……です」

僕の反応を恐がっているのか、彼女の口調はどもっていた。

しかしその口調とは裏腹に

発せられた言葉には強い意志を感じた。

「君はさ、その、弟が何をしようとしているのか知ってるの?」

「いいえ」

「じゃあ、なんとなく察しがついていたりするわけ?」

「いいえ」

「じゃあ、どうしてそんなことが言えるんだい?」

賛成だなんて。小さくそう付け加えて、僕は彼女の反応を待つことにした。

「わかりません。尚樹さんが何を考えてるのかとか全然わかんないけど、ただ、なんとなく、なんです」

「兄貴。頼むよ。付き合ってくれ」

2人の姿が僕の正面に位置していた。

まるで、娘との結婚を許せずにいる父親のようだった。

「おねがいします」

弟のために彼女がここまで必死になる理由が見あたらなかった。

さっきまでの彼女とはまるで人格が違う。

あの弱々しい彼女とは。

「わかったよ……わかった。でも三日間だけだ。月曜になったら2人とも家まで送るからな。強制的にだ」

「十分だよ。ありがとう、兄貴」

良かった。

独り言のように呟く弟は本当に嬉しそうだった。
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