Sweet Rain
空腹を満たせればよかった僕は反論することなく方向表示ランプを左に明滅させた。

「後ろの彼女、起こした方がいいんじゃないか」

そう言うと、弟は気づいていなかったのか、しばらく彼女の寝顔に見とれていた。

「まるで天使みたいだな」微笑みながら呟く弟の姿が目に浮かんだ。

「兄貴さ、どう思った? 彼女のこと」

弟の声のトーンが少しだけ落ちた。表情は見ずとも想像できた。

「可哀想だと思った、とでも言えば満足か?」

「いや」

弟の口元はわずかに緩んでいた。

「そう返してくると思ったよ」

弟は笑っていた。どことなく空笑いをしているようだった。

「おい、そろそろ起こさないと」

「そうだね」

車はゆっくりとカーブし、マイクとスピーカーの備え付けられた位置で停車した。

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