Sweet Rain
弟が高校一年生の頃、僕はその時大学に入ったばかりで、初めての一人暮らしにも、初めての彼女にも浮き足立っていた。
僕は大学進学を機に実家を離れ、遠く離れ県外の大学で一人悠々自適に大学生活を送っていた。
そんなある日のことだった。
ケータイに着信があった。
相手は弟からで、「ごめん、突然。あのさ」 と、不意に嫌な予感がした。
それが杞憂に終わればどれだけ楽だっただろう。
今でもそう思っていた。
「今アパートの前にいるんだ。悪いけど部屋のドア、開けてくれない?」
冗談とも取れぬ話し方に僕の思考回路は完全にストップしてしまった。
言われるがままに部屋のドアを開けるとそこにいたのはやはり弟だった。
ずぶ濡れになりリュックサックを担いでいる。
背後には弟のロードバイクが柵にかけられていた。
部屋にいる間に外では雨が降りしきっていた。風も強い。
「ごめんな、兄貴」
「なにやってんだよ…ホントに。お前高校は?」
「ん~…まあ、気にしない気にしない」
「で…さあ」
「ん?」
僕が部屋の中へと入るように促すと弟はそれを渋っていた。
「どうした。入らないのか?」
「あ~…えっとさぁ…」
「その、実は…」
そう言って弟のかげから現れたのは見たこともない女の子だった。
「この子も、一緒に、いいかな?」
弟の表情がにやけていた。
多分優しい兄なら大抵のことは許してくれる、と高をくくっていた笑みだった。
その日ほど兄としての威厳がなくなりつつあるな、と心配になった日はない。
「お願いします」
聞こえるか、聞こえないかくらいの小さな声音だった。
脇にいた見知らぬ女の子を尻目に、「今日は雨だったか」と呟いていた。
僕は大学進学を機に実家を離れ、遠く離れ県外の大学で一人悠々自適に大学生活を送っていた。
そんなある日のことだった。
ケータイに着信があった。
相手は弟からで、「ごめん、突然。あのさ」 と、不意に嫌な予感がした。
それが杞憂に終わればどれだけ楽だっただろう。
今でもそう思っていた。
「今アパートの前にいるんだ。悪いけど部屋のドア、開けてくれない?」
冗談とも取れぬ話し方に僕の思考回路は完全にストップしてしまった。
言われるがままに部屋のドアを開けるとそこにいたのはやはり弟だった。
ずぶ濡れになりリュックサックを担いでいる。
背後には弟のロードバイクが柵にかけられていた。
部屋にいる間に外では雨が降りしきっていた。風も強い。
「ごめんな、兄貴」
「なにやってんだよ…ホントに。お前高校は?」
「ん~…まあ、気にしない気にしない」
「で…さあ」
「ん?」
僕が部屋の中へと入るように促すと弟はそれを渋っていた。
「どうした。入らないのか?」
「あ~…えっとさぁ…」
「その、実は…」
そう言って弟のかげから現れたのは見たこともない女の子だった。
「この子も、一緒に、いいかな?」
弟の表情がにやけていた。
多分優しい兄なら大抵のことは許してくれる、と高をくくっていた笑みだった。
その日ほど兄としての威厳がなくなりつつあるな、と心配になった日はない。
「お願いします」
聞こえるか、聞こえないかくらいの小さな声音だった。
脇にいた見知らぬ女の子を尻目に、「今日は雨だったか」と呟いていた。