聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~
「それにしてもフューリィはまた背が伸びたね。骨格がしっかりしているから、きっと私よりも大きくなるだろう」

「そう? そう? そうかな? えへへ」

睦まじく笑い合う二人の向こうに金色に輝く何かがちらりと見えて、リュティアは首を傾げた。あれはいったいなんだろう。金色に輝くものなど、あっただろうか。

その答えは森の木々が途切れたその時、リュティア達の眼前に広がった。

それは息をのむような光景だった。

視界いっぱいに広がるは、金色(こんじき)。それは見事に一色に黄葉した木々の色だ。圧倒的なスケールで空の下いっぱいを、大地までもを鮮やかに染めている。

―いや、染まっているのは大地ではない、と一行は遅ればせながら気づく。

透き通るようになめらかな湖面が金色の木々を鏡のように映し出しているのだ。それは金と深い碧の混じり合う、あまりにも幻想的な湖であった。

「ここです。ここが深碧の湖です」

セラフィムの言葉を待たずとも、リュティアにはわかっていた。ここには神聖な空気が満ちている。しっとりと肌に染み透ってくるようだ。

「この湖の中に、神殿があります。
そこは聖域。
私のいた神殿と同じく大地の力とつながる場所。
聖乙女が共にそこまで来てくだされば、蓄えた力を損なわずに聖具の修復を始められます。いったんそこまで行ければ、修復は私一人で行うことができますが、25日…くらいでしょうか、かなりの時間がかかると思います。その間に、聖乙女を含め、皆さんにどうしてもお願いしたいことがあります」

セラフィムは瑠璃色のまなざしを一同に順番に注いだ。

「錫杖自体は修復が可能なのですが、要である“虹の宝玉”の損傷が激しく、完成には新しい虹の宝玉が必要です。虹の宝玉がこのプリラヴィツェの王都ラヴィアのどこかにあることは気配で感じられます。それを、探してきていただきたいのです」

「王都ラヴィア…」

アクスが思わずといったようすでうめいた。リュティアはそれに気づかず、一も二もなく頷く。

「…わかりました。それが必要なら、必ず見つけて来ます」
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