夢の結婚 ……
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今、二人はいた。



あの日の場所に。




「……それ…。なん…で?」

由美子はまたもや頭が真っ白になった

思考回路は停止し、身体の全ての昨日が

使えなくなったんじゃないかと思った。



忘れられない大切な記憶と現実がごちゃ

混ぜに由美子の中で交差する。



「由美子…姉ちゃん…」



なんだ、そうだったんだ。


間違いない。


今ならわかるような気がした。


初めて見たときの懐かしい笑い方も。


私を見て、嬉しそうにして、真人は最初

から知っていた。


冷たい目がなぜか寂しげに見えた事も。


この、呼び方も。



それに…何より…

そのキーホルダーは…




「それ、まだ持ってたんだね……。

しん…じ……っ!!」




由美子は溢れる涙を抑えきれなかった。

由美子は大切な弟の胸で泣いた。



過去の悲しみともう、手放さなくていい

今の幸せに。


共に涙を流しながら、姉は弟の腕に抱か

れていた……









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由美子は真人から、あの日いなくなって

からの事を聞いた。


施設に送られた後、1人街に逃げ出した

こと。

そこで、高橋組に引き取られ息子として

迎えられたこと。



由美子の事を人知れず調べて、由美子の

働く会社を紹介してもらったこと。




由美子は真人の言葉を一言一句逃さず真

剣に聞いた。



その後も二人の話は絶えることなく、

まるで空白になった時を埋めるかのように

今の幸せを噛み締めていた。




「あ、由美子姉ちゃん!!

そういえばまだ仕事中だよ。」


「あっ!! そうだった!!

とりあえず会社に一回戻ろっか。


……ねぇ、真二っ。今日家に来なよ!

まだ、いっぱいっ話したいことあるんだ

からっ」



由美子はまだ喜びが収まらないのか、

楽しそうに言った。




まるで、小動物みたいだな。

とそんなことを思いながら、もちろん真

人も同じ気持ちで由美子のそんな姿を微笑

ましそうに笑いながら見ていた。



「姉ちゃんっ、俺はもう真人だって!!」



「ぇー!! いいょー、真二は真二!!…

ふふっ」




由美子はそう言うと、先に車へ向かって

しまう。



真人も喜びで顔が弛んでしまうのを抑え

ながら、由美子の後を追おうとした………






ダンっ!! 真人の後ろに突然なにかぶつ

かった。





「ぅおわっ!!…」


後ろからの衝撃に真人は思わず振り返る。






「……ぇ、…ま…き?」


真人は目の前の人間に目を見開いた。





同時に背中に燃えるなような熱さ。



そして、身体中の血が一気に引いていくよ

うな感覚にとらわれ、なんとなく自分が刺

されたのだなぁとぼんやり考えていた。



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