蝶々、ひらり。
そうして俺達は卒業を迎える。
坂上は採用試験に合格し、地元の高校の教師になる事が決まっていた。
対する俺は採用試験に落ち、近くの私立高校の講師として勤めながら再び夏の教員採用試験を目指すことになる。
有紀は慌ただしく準備を整え、三月下旬には東京へと旅立って行った。
別れの時、俺は彼女になんて言っていいのか迷っていた。
「会いに行く」も「待っている」も、俺にはいう資格がないような気がして。
「大輔、行ってくるね」
電車の前で、彼女はそう言って泣き笑いになる。
「ああ」
彼女にとっては、今までのしがらみを忘れて新しい場所で新しい恋をした方が幸せなのかもしれない。
約束めいたことは何も言えず、ただ彼女の唇にキスをした。
すると体を離すと同時に、有紀が俺の顔にハンカチを当てる。
泣いているのは自分の癖にと思ったら、雫が俺の頬を滑る。
ああ俺も泣いているのかと、その時になってようやく気がついた。
ハンカチを受け取った瞬間に、軽やかに有紀は電車に飛び乗った。
ふわり、とスカートが風を含んで広がる。
「またね、大輔」
「ああ」
ガタンゴトンと、鈍い音を鳴らしながら電車が遠ざかる。
ようやく飛び立つんだな、と思った。
俺のせいで堕ちた蝶は、一年半の時を経てきっと再生したんだ。
そしてまた飛び立っていく。
今度こそ、戻らずに。
まだ冬の空気を含んだ冷たい風が、俺の全身を撫でつけながら嘲笑うように追い越していった。