僕と御主人(マスター)の優雅な日常
日差しが強くなってまいりました。


毎週日曜日、僕の御主人(マスター)は出掛ける。そして、僕を必ず付き添わせる。え? 理由? そんなの言うまでもない・・・荷物持ちだよ。

これは、日差しが眩しく感じ始める五月のとある日曜日のお話。



「出掛ける」

いつものようにそう告げられた。世の中には主語と述語と、付け加えるならば修飾語とかもあって、「出掛ける」なんて動詞だけじゃ情報が足りないなんて思うのは僕だけだろうか?

御主人(マスター)はいつも最低限のことしか言わない。僕は従者だけど、超能力者じゃないんだぞ。

しかしそんなことは今更だ。僕は御主人(マスター)に言ったことがある。

「御主人(マスター)、もっと具体的にお願いします」

僕をちらりと横目で見て、

「・・・察しろ」

こんな感じだ。だから僕はもう諦めている。文句はあるけど・・・諦めている・・・はず。うん。



ちなみに御主人(マスター)が出掛ける場所は図書館だ。なにやら難しそうな本を読んでいるのを以前見かけた。僕は暇なので、その間ぶらぶらして手当たり次第本を開いてみたりする。でも文字が苦手な僕は、すぐに諦めてしまう。独特の匂いに包まれながら難しい文字を目で追うよりも、外で身体を動かす方が好きだ。


ニ時間ほど経って、帰ることになった。今回御主人(マスター)は、分厚い本を五冊借りた。図書館から自宅までは歩いて帰る。お金持ちの家に生まれたのに車で移動しないのかと聞いたことがあったが、ちらりと視線を寄越しただけだった。うーん、あれはたぶん、「この距離を歩けないほど軟弱ではない」、とかかな、うん。僕の解釈のレベルも日々上達しているはず。


図書館を出ると、太陽光線に襲われた。ついこの間まで桜が咲いていて小春日和が感じられたのに、季節が過ぎるのはいつもあっという間だ。


「太陽だ。溶ける」

そう言って御主人(マスター)は日傘を広げた。

ぷっ、と思わず笑ってしまい、不機嫌そうな眼差しが寄越される。

「なんだ、悪いか?」

「いえ、男性が日傘をさすのは見たことがなかったので・・・」

「男が日傘をさしてはいけないなどというルールはない」

そうでございますとも。いや、ですがね。事実、見たことがないんですから。

御主人(マスター)が女性に見えてしまうのは、もともとの容姿の美しさだけではなく、透き通るような肌の白さのせいもあるかもしれない。


「帰るぞ」

僕の御主人(マスター)は少し(いや、かなり)変わっている。だけど、僕はこの人にずっと仕えたいと思っている。そんなことを思う、休日の昼下がり。


【End】

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