私の心に笑顔で入ってきた君を、私はきっと、追い出せない…
キャンディ

「はあー。」
麗らかな春の兆しに似合わず、私は一つため息をつく。今日は学校だから、切り替えなければ・・・。と、思うのに何故だか気持ちが付いて行かない。
「きゃっ!!」
もう一つ、溜息が零れたとき、後ろからいきなり抱き着かれた。
「おっはよー!」
という、なんとも元気の良すぎる声とずしりと重い、人の重量感。怖さ半分で、肩に乗っている顔を見れば、昨日の青年。
「きゃっ!!・・・なんてかわいいじゃん。」
「・・・なんでいるんですか。」
そこには、にっこりと笑っている顔が一つ。本当に、むかつくほどの笑顔。
「なんでって・・・、これだよ。」
そう言われ示されたのは、一条と青色で刺繍されている名前。制服は同じ学校の男子生徒用。
一方、私は緑色の刺繍。色別でいえば、青色は2年生、緑色は1年生。
「先輩・・・ですか。」
「そーゆうこと。」
前に回られ、ウインク付きで答えられる。

―――――ああ、軽いな。

「それで、何か御用ですか?先輩。」
皮肉を込め、まっとうに返すが同じくにっこりと笑顔で返される。
「もちろん。・・・名前、教えてくんないかな??」
「はい?」
思わず、上擦った声が出てしまう。
「名前だよ。な・ま・え!ほんと、かわいいなあー。」
頭ポン、をされ「教えてくれるよね。」と顔を近づけられる。
「い、いやです!」
赤いであろう顔を背け、できるだけ力強く答える。
「えー。なんで?」
「教える義理がありませんし、名字で呼べばいいでしょう。先輩こそ、理由はなんですか。」
先を越し、歩き出す。
「理由なんて、俺が君の名前を呼びたいだけなんだけど。」

―――――!?

後ろを見れば、きょとんとした先輩の顔。少しどきりとしたけど、構わず正門へと向かう。
横では先輩の「名前~!」という、うるさい声が響いている。
周りの生徒はそれを見て、くすくすと笑っている。正直言って、目立つのは好きじゃない。
だから、それを理由にして私は口を開いた。

「琴羽。」
「えっ?」
知ることを諦めていたのか、先輩は目を見開いてこちらを見ている。
「水夜・・・琴羽。(みずやことは)」
「君の名前?」
疑うように顔を伺われた。また、顔が近くて頬が熱くなった。
「そ、それ以外にありません。」
俯いて言葉を紡いだ。
「ふーん、ありがと。琴羽。」
背をむけられ後ろ手に手を振る先輩。少しだけ、心が寂しい感じがして足をとめた。
綺麗な桜の花びらが、宙を舞う。先輩の背が桜によって彩られる。
ぼーぅと、それを眺めていると。いきなり揺れた。先輩が、こちらを見る。
「琴羽!」
覚えたての私の名前を叫ぶと、私に向けて何かが投げられた。それを慌ててキャッチして、手のひらを見れば、一つのキャンディ。
「これ!」
前を見れば、そこには嬉しそうに手を振っている先輩の姿があった。
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