私をひとりじめ
「っ、えっ!?」


私の視界に映る目の前の男性のことなんて、全く知らなかった。

私は、聞き間違いではないかと自分の耳を疑った。

脳内で『?』マークが踊っていた私に、母は答えを出してくれた。


「……あれ?亜果利……もしかしたら覚えてないの?
お隣に以前住んでた慎(しん)君よ。
よく亜果利、慎君に遊んでもらっていたじゃない。
いやだわ、この子ったら……。」


母は口に手を当て、声を出して笑っていた。


「……し・ん・君……しん君……あの、慎君?」


私は過去の遠い記憶を手繰り寄せながら、彼の名前をつぶやいていた。


「もしかして、慎君?」


霞がかかったように薄っすらと記憶が現れてきた。

しかし、かっこいい隣の男の子だったという漠然としたイメージしか思い起こされなかった。

しかし、私がその男の子に抱っこしてもらったり、確か肩車してもらったとか、遊んでもらったことは何となく覚えていた。


「ごめんなさい。
はっきりは覚えていないかも……。」



私が彼に謝ると、彼は一瞬、口元が歪んだように見えた。


『……気のせいだろうか?』


何事もなかったように彼は笑顔を私に向けた。


「おばさん、小さい頃のことなんて、覚えているはずないさ。」


彼は、母に話した。


「そうよ、そうよねえ。」

母と彼の隣のおばさんが同調するように話した。




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