秘め恋*story1~温泉宿で…~
ふと、気配を感じて振り返ると、いつの間にかすぐ後ろに酒井くんが立っていた。
180㎝は越えてるなぁ…男の子ってどんだけ成長するのよ。
なんて呑気なことを考えながら、見上げる。
「あの…葉月さん。」
「?」
ちょっとタレ目で綺麗な瞳でじっと見つめられた。
恥ずかしいけど、目を逸らすことができない。
「抱き締めても、宜しいですか…?」
え…
それってどう…
ーーーーーギュッ。。
「さ、かいくん…?」
「すみません、
どうしてもこうしたくなりました。」
私の返事を聞くより早く、抱き締められた。
耳許で穏やかな声で謝ってきた彼。
でも、その声いろにはちょっと強気な雰囲気があった。
浴衣越しに感じる酒井くんの意外にもガッチリしている身体。
見た目細いのに…ずるい。。
そのギャップにドキドキしながら、
ちょっとジェラシー。
「葉月さんは逃げてなんていませんよ。」
「違うわ、私は…」
「ちょっと頑張りすぎたんですよね?
だから、ちょっと休憩。」
「・・・」
あぁ、何でだろう。
あれだけ何もかも嫌になって、心もすり減ってたのに。
どんどん心が満たされてく感じ。
「そうなのかな…」
「はい。」
現実逃避じゃなくて、休憩…
「ありがとう、酒井くん。
だいぶ楽になったわ。」
「いえ、私は何も。」
そう謙遜しながら、スッと離れた彼。
一瞬にして身体が寂しいって叫ぶ。
でも、だめ。
彼にはこんなに気持ちを楽にしてもらったんだもん。
彼にこれ以上求めちゃいけない。
彼にドキドキするのも、想うのも、
この時だけ。
だって私はあと少ししたら、またあの変わらない仕事漬けの日常へと帰らないといけないから。
「あーあ、もう1回温泉入ってこようかな!」
気持ちを押し込み、温泉を口実に彼の近くから離れた。でも、急に動いた私にお酒の余韻が…
グラッと身体がふらついた。