秘め恋*story1~温泉宿で…~




ふと、気配を感じて振り返ると、いつの間にかすぐ後ろに酒井くんが立っていた。




180㎝は越えてるなぁ…男の子ってどんだけ成長するのよ。



なんて呑気なことを考えながら、見上げる。




「あの…葉月さん。」



「?」




ちょっとタレ目で綺麗な瞳でじっと見つめられた。



恥ずかしいけど、目を逸らすことができない。




「抱き締めても、宜しいですか…?」




え…
それってどう…



ーーーーーギュッ。。




「さ、かいくん…?」



「すみません、
どうしてもこうしたくなりました。」




私の返事を聞くより早く、抱き締められた。



耳許で穏やかな声で謝ってきた彼。



でも、その声いろにはちょっと強気な雰囲気があった。




浴衣越しに感じる酒井くんの意外にもガッチリしている身体。



見た目細いのに…ずるい。。
そのギャップにドキドキしながら、
ちょっとジェラシー。




「葉月さんは逃げてなんていませんよ。」



「違うわ、私は…」



「ちょっと頑張りすぎたんですよね?
だから、ちょっと休憩。」



「・・・」



あぁ、何でだろう。


あれだけ何もかも嫌になって、心もすり減ってたのに。


どんどん心が満たされてく感じ。




「そうなのかな…」



「はい。」




現実逃避じゃなくて、休憩…




「ありがとう、酒井くん。
だいぶ楽になったわ。」



「いえ、私は何も。」



そう謙遜しながら、スッと離れた彼。
一瞬にして身体が寂しいって叫ぶ。



でも、だめ。
彼にはこんなに気持ちを楽にしてもらったんだもん。



彼にこれ以上求めちゃいけない。



彼にドキドキするのも、想うのも、
この時だけ。



だって私はあと少ししたら、またあの変わらない仕事漬けの日常へと帰らないといけないから。




「あーあ、もう1回温泉入ってこようかな!」




気持ちを押し込み、温泉を口実に彼の近くから離れた。でも、急に動いた私にお酒の余韻が…




グラッと身体がふらついた。






< 11 / 15 >

この作品をシェア

pagetop