秘め恋*story1~温泉宿で…~
部屋に置いてあるおまんじゅうを頬張りながら、窓の外を眺めた。
小さな川が流れていて、架かっている橋の上から地元の小学生かな…子供達がキャッキャと遊んでる。
川の水が流れる音、子供達の元気な笑い声、
聞いたことのない変わった鳥の鳴き声、
離れた道路の車の通る音…
そんなのどかな非日常的な音を感じながら、
私は改めてこの休みを取って良かったなぁと感じていた。
週末でも土日でもない、こんな平日にのんびり独りぼっちの温泉旅行に来ている私。
葉月 弥生(ハヅキ ヤヨイ)。35歳。…独身。
仕事漬けで、身も心も疲れきった30代の可哀想な女。
毎日毎日、パソコンをカタカタ。
上司に、取引先に、ペコペコ。
後輩にガミガミ。
自宅の暗い部屋に帰った頃にはヘトヘト。
それでも次の日はシャキッと気合いをいれて出勤。
日々それの繰り返し。
「明日から私、休みます!」
突然宣言して、溜まっていた有給で休みをとった。
上司も急な申し出にあっけにとられてたけど、有無を言わせずその日の夕方には新幹線に乗った。
こうして急遽決まった私のひとり癒し旅。
前の日に偶然予約できたのがこの旅館だった。
ラッキー。
神様も疲れて女っけの薄れていった私に同情したのかな。
というわけで、何にも考えず、仕事のことも何もかも忘れてこの休みを満喫してやる!!
「あ、ちゃんと部長に書類渡したかな…」
ふとダメ後輩の心配…
おっと、いかんいかん。
しばらく仕事のことは頭からグッパイだ。