秘め恋*story1~温泉宿で…~
「へぇ、ここ美肌の湯って言われてるんだ。」
さっきフロントの所で取ってきた旅館のパンフをひとり見ていた。
案外、名湯の旅館だったのかも。
最近肌の調子もイマイチだったし、いい機会だし、ついでに女磨きでもしよっかな。
ま、いくら磨いたって男はなかなか寄ってこないけどね。
はぁ、気づけば30代もあっという間に5年過ぎた。
仕事漬けのおかげで婚期は逃し、恋愛からも遠ざかり、はぁ…胸キュンなんかいつからしてないかな。
あ、ダメダメ。
何も考えない②。
今は癒しだけを満喫するの。
「葉月さま、失礼しても宜しいでしょうか?」
自分癒し旅を意気込んでいると、部屋の引き戸越しに声を掛けられた。
仲居さんかな?
「どうぞー。」
何気なくつけていたテレビをリモコンで消す。
そして、視線を入ってきた人の方へ向けた……
「……ぅわ。」
思わず口から漏れた驚きの声。
「この度はありがとうございます。
今回、おもてなしさせていただきます、
酒井と申します。よろしくお願い致します。」
そう言って、丁寧に深々とお辞儀をした彼。
ふわっとした柔らかそうな黒髪。
くっきり二重のちょっとタレた目、艶のある薄い唇。
「お客様…?」
「あ、ごめんなさい。こちらこそ、お世話になります。」
思わず見つめたままボーッとしてしまっていた私はキョトンと可愛い表情で声を掛けられて、慌てて言葉を返す。
「出来る限りのおもてなしをさせて頂きたいと思っておりますので、お気軽にお申し付けください。」
「ありがとう。」
その彼はニッコリ笑うと、夕食の時間などを説明すると部屋を出ていった。
「…可愛かったな。」
久しぶりに胸がドキッとする感覚。
笑顔が可愛い爽やかな好青年。
はぁ、この旅館に予約して良かった。
自分癒し旅がきっと充実するだろうと確信しながら、浴衣に着替えた。
そして、美肌の湯へと足取り軽く出掛けた。