先回りはしたくてしてる訳じゃないんですけど！

何度遠回りをすれば気が済むのだろうか

「彼のハートを鷲掴み大作成」は未だに継続中なのに、全然手応えなし。


もう、一週間も行ってきますのキスとお帰りなさいのキスを彼のネクタイを引っ張って無理やりしてるのがダメなのかな？

それとも、お風呂に入ってる彼の後に続いて無理やり一緒にお風呂に入ってるのがダメなのかな？

それとも、ベッドで彼の愛撫を中断させて無理やり彼に奉仕するのがダメなのかな？

それとも、………

って、言い出したらきりが無い！


どうして、彼のハートが私に向く気配が無いの！
こんなに、こんなに尽くしてるのに！


いや、まだ一週間しか経ってないしこれからが勝負！
絶対、ぜーったいにプロポーズさせてやるんだから！




＊＊＊＊

今日は日曜日。
休日最高！


彼はのんびりとソファーで撮り貯めしていたドラマを観ている。


チャンス到来だー！


彼の隣に隙間が無いくらいに擦り寄って座った。
あーいい匂い～
同じ洗剤で洗ってる筈なのにどうして彼からは私とは違う匂いがするんだろう…


彼の匂いを胸いっぱいに吸い込んで彼の腕に顔をすりすりしていると、冷たい視線を感じる。

ふと上を見上げると彼と目が合った。


「いい加減にしてくれ。鬱陶しい。」


ガーン……


そんな怖い目しながら言うことないじゃない…
私、彼女だよね…？
彼女とのスキンシップくらい我慢して欲しいんですけど…


っていうか、

「それ、私のプリン!!!!」

「…は？」



彼が何か食べてるなとは思ってたけど、まさかまさか私が大切にとっておいたプリンだったとは………

「……ヒドイ」


体の震えが収まらない！


「政孝の分のプリンは自分が昨日の夜食べたでしょ！どうして私の分まで食べちゃうのー！」


「昨日の夜…？あぁ、そういや食べたな。」


「…私のプリン………」


このプリンはただのプリンじゃない。
駅の地下にある大人気の洋菓子店で１つ500円もする期間限定かつ数量限定のプレミアムプリンなのだ。


昨日わざわざ並んで、自分の分だけ買うのはどうかと思って彼の分も買ったのに…
なんたる仕打ち……


「…なんだ、そんなにこのプリンが食べたかったのか？」


彼は心底不思議そうに聞いてくる。
パッケージをみてスーパーで売っているプリンとの区別はつかなかったのかと彼にキレしてしまいそうだ。


「……政孝には分からないでしょうね！どんなに私がこのプリンを楽しみにしていたか！」


「おいおい、プリンくらいで泣くことないだろ。」


彼の顔が引き攣っているのが分かる。


勿論、私がプリンだけで泣くことはない。
ないけど、目に涙が溜まる。


彼の私に対する気持ちなんて、本当に少しもないんだなって考えたら
なんだか凄く惨めな気持ちになってきたからだ。


私がプリン大好きなこと知ってるくせに。
昨日『プレミアムプリンなんだよ』って言った私の話も全然聞いてなかったんだ。


「…帰る。」


「……は？ちょっ、菜々美っ」


ここは政孝の部屋。
ずっと彼の部屋に入り浸っていて同棲状態だが一応私の部屋も借りたままにしている。


もういい。
帰ろう。
一人になりたい。


「…待てよ。帰るって、どこに帰るつもりだよ。」


腕を掴まれて、立ち止まる。
でも、彼の顔を見たくない。


「自分の部屋に帰るの。政孝と一緒にいたくない。」


「少しは落ち着けよ。プリンくらいでいちいち家出するな。」


「……家出じゃない！もうここには来ない。本当は政孝だって私のこと迷惑なんでしょ？」



ついつい心の奥にあった本音がこぼれてしまった。

こんなこと言うつもりなんて無かったのに
今日は一緒に休日を満喫してラブラブする予定だったのに


悔しくてまた涙が溢れてきた。



「それ、本気で言ってるのか？」


彼の声がワントーン下がった。


「ほ、本気に決まってる！」


怖くて狼狽えてしまったが言いたいことはもう言ってしまおう。
そんなポジティブシンキングが頭に閃いてしまった。


「政孝が私のことに興味なくても、気にしないってずっと思ってきたよ。
『付き合ってもらってる』っていう自覚もあるし、私が政孝のタイプの女じゃないことだって分ってるし、せ、せ、先月に同じ部署の子に告白されて満更じゃ無さそうにしてたのだって知ってるんだから!!!!!!!!」


………言ってしまった。






ちらりと彼の様子を見ようと見上げたら今まで見たこともないくらい怖い目をした彼と目が合った。
反射的にビクッと体が跳ねる。


「……だから？」


「…………？」


「だから、何だって言うんだよ。
『満更じゃ無さそう』だって？ふざけんな。同じ職場の女に告白されて断った後に仕事に影響がでないようにこっちがどれだけ気を回したと思ってんだ。」


「…え……あの…」


彼の全身から怒りが溢れていて無意識に後ずさりしてしまいそうになるが腕が掴まれているため動けずに仰け反ってしまった。


「『タイプじゃない』って誰が言った。」


「…あの、その……」


「俺がどんな気持ちでお前といると思ってるんだ。お前は俺がどうでもいい女と付き合って一緒に暮らすような男だと思ってるのか。」


「……う……あ、す、すみません………でも、プリン食べた。」


「プリンプリンって、それしかお前の頭にはないのかよ。」


「私にとっては一大事だもん…」


「プリンなら冷蔵庫にあるだろ。」


「………？」


「だから、冷蔵庫にあるだろ！」


………はい？