瞳が映す景色

①ー2・ひそやかな

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①ー2・ひそやかな
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それからの一ヶ月は曖昧な日々。


テスト期間があったのは助かった。期間中、生徒は職員室出入り禁止になる。逃げ場所だと勘違いしていた準備室より、引きこもってさえいれば遥かに安全だと言える。


それでも……藁科は、絶妙のタイミングで現れては、愛を囁く。オレはそれに無理だと答え、藁科からは諦めませんの繰り返し。


けど、それだけ。それだけだと、間違っても感謝などはしていないが。




藁科は、誰か他に人がいる時やいそうな時は、宣言通り、生徒。


『片山先生は、先生がピッタリです。私のせいで辞めさせたくないですから』


自信に満ちた、なんて恥ずかしい台詞……藁科の欠点は、きっと、その曇りきった目だ。なにがピッタリなのだか……。


真実が見えていない、一見澄みきった目で、もっと現実を凝視すればいい。そうしたら気付くはずなのに。藁科は相変わらず、はにかむような笑顔をこちらに向ける。


……確かに、藁科は可愛らしい子だ。もう少し歳を重ねたら公になるだろう密かに整った顔立ちは、清潔感があり好印象。深い茶色の瞳がキレイだ。長くて細い黒髪だって嫌いじゃない。性格も、際立って悪そうな箇所は見当たらない。


けど、それはオレの女の趣味から逸脱していないってだけで、好きになるとか……そうじゃないだろう?

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