瞳が映す景色




「……めんどくさ」


「え~、何かな?」


「別に……」


いつもの場所で、今日は久しぶりに余裕ある滞在時間だからと、白鳥さんから意見を求められるお店の閉店時刻。忙しくて疲れているのか、今日の注文はおむすびセットで、いつも一番に口にする揚げ物は順番が違っていた。


「あっ、解けて落ちたよ~」


「っ」


外の掃除の拍子に頭から滑り落ちた三角巾を慌てて結び直そうとしたけど、髪は纏めているから大丈夫だし、もう閉店したんだしと、落ちた短い髪をヘアピンで留め直すのみにとどまる。


「髪、伸びたね~。まともに見たのは冬だから、伸びるの早い?」


「わりとそうかも。――……、昔はもっと長かったんだ」


「そうなんだ~」


梅雨入り間近の蒸す夜は、頭の回転が鈍る。大きく息を吸っても心地よくないし、吐いたら吐いたで湿気の壁に阻まれるみたいで苦しい。


肩甲骨辺りだと見えるあたしの伸びた髪は、けれど昔みたいに靡かせることはなく、もう最近はずっと結われたままだ。


「――ところで、さっきの続きっ。もう観たんだよね」


「観たけど……」


「けど?」


「あたしのほうが絶対に行きたかったオールナイトに行った人と話したくない」


冬に、偶然同じ映画を観ていた白鳥さんは、適当に選んだそれを気に入ったらしく、先日、オールナイト一気見上映という羨ましいものに行ってきたのだという。


「だって~。まだ公開されてるの全部がさ、販売もレンタルもしてないから、チャンスだったんだ」


白鳥さんは、劇中の、女性主人公にずっと想いを寄せる男性にこだわっていた。


男性は、女性主人公に対して、永遠に知られることも、うっすらと気付かれることもない愛情と優しさを送っていた。

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