瞳が映す景色

ここ三ヶ月くらい、あたしは頻繁に気持ちが悪くなってしまう。


原因は、やっぱり、白鳥さんなんだろう。それくらいは認めざるをえない。


苛々するんだ。前にも増して。


もう断ち切ってしまえばいいことばかりに固執していて、それを毎度嘆かれたり惚けられるこっちの身にもなってほしい。


なんでこんなことに付き合ってるの? だって仕方ないじゃない、友達になっちゃったんだから――そうやって、昔のあたしと今のあたしが何やら言い争っているような感覚のとき、あたしは、よく気持ちが悪くなる。


当初、放置しておくしかなかった泥沼状態は、ある日、伸びた前髪を自分で切っているときに活路を見い出した。


鋏を髪に入れる度、あたしは楽になっていって。息も、しやすくなった気がした。


恐る恐る、前髪以外に、今よりも遠慮がちに刃をあてて切り落としてみれば、状態は更にましになって、心配してくれていた家族の前でご飯を食べることができた。久しぶりに、美味しいと感じた。


「――」


鏡の中のあたしは、下ろした髪こそ不自然だったけど、それ以外に首を捻るところはなく。


今日切ったところの髪が纏められる長さだと確認して一息つく。あちこちざんばらになっている箇所も、被害当日より伸びてきた。


「安心してよ――」


――昔のあたし。


もう同じ鉄は踏まないから。好きとかじゃないから。


最低なところもあるけど、いい人でしょ?


そんな人、捨て置けないじゃない。どうせお店の常連で、嫌だとしても付き合わなきゃいけないなら、嫌だと思わず顔を合わせたほうがストレスにならない。


どうせなら、幸せでいてほしいじゃない。改心だって、したんだよ?

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