瞳が映す景色

ああ――そうか。


だから。




薬指をなぞる指はあたしの手を縦横無尽に移動していき、今日も指輪を外していると喜ぶ。


いつしか、手のひら同士を合わせるようになっていた。指の間まで全て、汗で湿りきっている感触に背筋が震える。


羽毛布団の中だったもう片方の手がゆっくりと出てきて、肩を抱かれた。


肩から首の後ろを辿り、白鳥さんの手はあたしの後頭部を包む。


「こっち……来て……?」


抗う素振りなど微塵もせず、あたしは、望まれるままに。


腰を浮かせて、近くへ。ベッドの脇に肘をつく。


後頭部には、添えられたまま。


そうして、


弱い呼吸がまつげに感じられる距離まで近付いた。






「好き、だ」


声を、あたしは出しちゃいけない。


「帰らないで……」


いいかどうなんて、こういうとき訊かれないのか。初めて知る。大人同士の間合いというのは、空気感染みたいに伝わっていくんだ。


うん。嫌なんかじゃ、ないから。


逃げないのに。不安なんだろう。白鳥さんはあたしを離さないと必死だ。場違いに感動する。


もう、今この空間に言葉はひとつもなくなった。




後頭部にあった手が前に来て、唇にゆっくり触れてくる。宝物みたいに、扱ってくれる人なんだね。こういうとき。


僅かに隙間を作ってしまった瞬間、白鳥さんの指が落ちてきてしまい口内をさ迷わせてしまう。


合図だったみたいに、もう限界だとでもいうみたいに、指は引き抜かれ、性急に唇を引き寄せられた。


最初は何度か啄むみたいに。徐々に、一回に触れる時間の長さは増していく。


触れるだけだったキスは、いつの間にかそれだけではなくなって、お互いを味わう深いそれへと変わっていた。


最初に感じた白鳥さんの味は、顆粒が一粒残っていたのか、苦い苦い、風邪薬風味だった。

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