瞳が映す景色

唇の離れる音に煽られて、また重ねられる。音は回数を増すごとに色を変え、恥ずかしくてたまらないものになっていく。それが状況をもっと煽る。含まれたまま口内で舐められる唇に我を忘れそうになる。


吐息くらいは、漏らしてもいいだろうか。


「――っ」


自分じゃない息づかいを感じて嬉しいのか、白鳥さんからの行為は勢いが増す。触れている場所は、もうどちらのものか判別がつかない。


こんなに熱いのは、熱のある白鳥さんだからなのか。


自分の舌で自分の歯や唇、他なぞれる箇所が、なんで、他人だとこんなにも気持ちがいいだろう。




酷い男だ。白鳥さんは。


あたしと人妻を間違えるなんて。いくら意識が朦朧としていて目も開けられないからって、気付かないなんて本当に馬鹿。


これじゃあ、みんな傷付けるだけだよ。




酷い女だ。あたしは。


全てを捨てて来てくれたかもしれないと、今自分の傍に居るのは愛しい人だと思ってあたしに触れる白鳥さん。


もし間違いを知ったら、きっと後悔ばかりなんだろう。それでも、あたしは唇を離さない。全てを理解して、離れない。


こんな、あたしばかりに得なことに酔いしれる。




キスという行為は脳内麻薬だと、初めて知った。思考に靄がかかっていく感じを、酷く俯瞰的に体験する。


やがて、一心不乱な唇は離され、寂しく思う間もなく、頬を伝わって耳に寄せられた。


「ぁ……っ」


くすぐったくて身を捩ると、満足げに笑うみたいな息を感じる。


唇は徐々に下降していき、首筋を、鎖骨に向かって移動する。道中、舌の熱さで何度も溶かされた。


ニットの襟ぐりが強引に広げられ、下ろされる。


緩く盛り上がりかける胸の上部まで唇が来て、鎖骨の少し下、そこに一度だけ、跡を付けられた。

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