潮にのってきた彼女
結局、俺たちは無事目的を達成した。
海に沈む夕陽、それと同時にあの、接した面から太陽が溶けるように広がる、朱色の海面を見ることができたのだ。


夏帆はかなりはしゃいでいた。
大きな声で「きれーい!」と連呼していた。

綺麗だったけれど、自分がこの景色に結構慣れていることに気がついてしまった。


「帰ろっか! 日も暮れたことだし」


夏帆は明るく言って、もう一度ベンチにのぼり、ぐるりぐるりと景色を眺め回した。
まるでこれが見納めだとでも言うように。

帰り道、夏帆はもう砂浜を歩きたいとは言わなかった。




道すがら、夏帆は興味深い話をしていた。

それは俺が真珠について口にしていた時のことだった。


「あ、聞いたことあるよ」


さらりと夏帆は言ってのけた。


「なんか、そーゆーおとぎ話みたいな真珠が存在するって話。言い伝えみたい。おばあちゃんが結婚するちょっと前に流行ってた噂って聞いたから、随分昔だけど」

「やっぱり、実在するのかな」

「さあ。簡単には信じられないけど、あったらすごいね。翔瑚はどこで聞いたの?」

「えっ……と、あの、ばあちゃんが」

「そうなんだ。うちのおばあちゃん、昔同じ学校に通ってたらしいよ。まあ、当時島には高校なんて2つしかなかったらしいけど」

「へえ、そうなんだ」

「うん。なんていうか、昔話」


夏帆はそれきり3分ぐらい黙っていた。

波の音を聞きながら真珠のことを考えていると、夏帆はまた口を開いた。


「そうだ! そういえばね!」


目を輝かせて夏帆は顔をこちらへ向けた。
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