潮にのってきた彼女
家より海抜の高いところから海を見るのは久しぶりだった。

打ち寄せ岩に砕けるしぶき。
活動を始めた海鳥たちがやはり優雅に海面を飛び交う様子。
両手を横に伸ばしても、先にはまだまだ青い水晶のような海が広がる。
まさに絶景だ。


青い空に青い海。

目を瞑ると、波の引く音で世界中が満たされるような錯覚。
目を開くと、多様な生命の息づく海という世界が果てなく広がる。


水平線の向こうにまで、思いを馳せたくなる。


「痛っ」


右足の小指に痛みが走った。
現実の世界に引き戻される。

見ると、尖った小石が刺さっていた。
サンダルを履いていればよくあることだ。


サンダルを脱いで、右足に手を持っていった、その時。
悪戯な潮風が、岩の上のサンダルを軽々とさらって行った。

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