潮にのってきた彼女
「ひいらぎ岬って言うんでしょ? しょうごたちの間では。私たちはサンゴの壁って呼んでるところなんだけど」

「ひいらぎ岬……」


さきほど夏帆が言っていた岬だ。


「岬のね、下のとこ。たてあな開いてて、洞窟みたい。入り口に砂があって浜辺になってる。そのあたりが海の中では、サンゴの壁に覆われてるの。とても綺麗よ」

「へえー……あそこが……じゃあすぐ、岬に行く」

「うん。でもそこからじゃ降りられないよ。切り立った崖だから。岬の手前で砂浜へ降りて、岩伝いに岬の方へ歩いてきて」

「わかった」

「待ってるね!」


アクアは海にもぐり、俺は地上へと走った。



納屋の戸の錆びた取っ手を思い切り引っ張る。
木屑が飛び散り、俺はそれを掃いのけながら納屋へ入った。


納屋の奥の壇にはごろりと大きなスイカが転がっていた。

その隣には上にオレンジ色の覗いたダンボール箱が置いてある。

今日もらった夏蜜柑だろう。
その証拠に、納屋にはほこりに紛れて清々しい柑橘の香りが漂っていた。


戸の裏に設置したフックから、自転車の鍵を取る。
岬までは自転車で行けば10分弱だ。



少し型の古いマウンテンバイクだが、性能は抜群。
年の離れた従兄弟のお下がりのこれを俺は結構気に入っている。

ペダルを思いきりこいで、ひいらぎ岬へと急いだ。
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