潮にのってきた彼女
ひいらぎ岬はおそらくここらで唯一「観光地」と呼べるスポットだ。

大きく切り立った崖の周りをぐるりと柵が取り囲んでおり、少し行った先には小さな土産物屋もある。


そしてどの時間帯でも、岬から見える景色は壮麗だ。

視界に海と空を遮るものが何もない。

だから、朝方には凪に佇む白いヨットの帆、夕方には沈んで海に溶けていく夕陽、と、おおよそ考えつく海辺の風景で見られないものはほとんどない。

そう思えば、そんな場所を今更夏帆が「夕陽が綺麗って有名」というのもおかしな話だが、夏帆の学年では今までそうでもなかったのかもしれない。




自転車でくねくねとした坂道を駆け上る。

岬に着くまでにトラック3台と自動車2台に会った。トラックの1台はながじぃの家のものだった。


ながじぃとみんなに呼ばれ慕われる長岡のじいさんは、真珠の養殖をやっている。
数は少ないが大粒の上物ということで有名だ。

さきほどの土産物屋でも売られていて、極稀に訪れる観光客が美しさに魅入られて買っていくことも少なくないらしい。


そういえば、今度養殖所に連れていってもらう約束をしていたんだっけ。
慧と朔弥と朔乃と一緒に、行かなければ。
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