シンデレラを捕まえて
自慢したい。
それもあるけど、大事なところは牽制だった。

比呂は、すごく女の子にモテる。大きな二重の瞳にすっと通った鼻筋。それと少し薄めの唇が小さな顔に完璧じゃないかっていう配置で収まっている綺麗な顔をしているのだ。クルクルと動く瞳はとっても表情豊かで魅力的だ。
そんな容姿でもって、仕事もテキパキこなすのだから、好きになる女の子が現れても全然不思議じゃない。

だからこそ、皆に知ってもらいたかった。比呂は、私の彼氏なんです、って。

私は、そんなに可愛らしい女じゃない。

背は百五十五センチ。体型は極々普通で、スタイルも特別いいわけじゃない。
顔立ちは地味め。比呂曰く、パーツは悪くないけど組み合わせ方や配置が微妙、らしい。化粧をすればそれなりに見られるけど、だからといって「美女」になれるわけではない。

そんななので、自分にあまり自信が持てなくて、だから、もしかしたら誰かに比呂を奪われちゃうかもしれないという不安をいつも抱えていた。
公言してしまえば、宣言してしまえば、この不安も少しくらい減るかもしれないのに。

そんな折の事だった。比呂が、跳びあがるくらい嬉しい言葉を私にくれた。


『社内恋愛って、辛い。美羽は俺のものだって、言えないんだもんな』


私も。私も一緒だよ! 
そう答えた私を比呂はぎゅっと抱きしめて、続けた。


『なあ、美羽。ボンヌ、辞めてくれないか? そしたら、胸張ってお前と付き合ってるって言える。みんなに自慢できるんだ』

『辞める? それってもしかして』

『美羽だったら、別の会社でもやっていける。そうだ、医療事務とか、経理事務とかの勉強してさ、スキルアップしてみろよ。絶対、美羽ならやれる』

『……ああ、うん。スキルアップ、ね』


結婚。そんな言葉が脳裏をよぎらなかったといえば、嘘だ。正直なところ、期待した。私はもう二十九だし、友人の中には既に子育てに突入している子もいる。そろそろそういう話が出ると嬉しいな、とこっそり思ってもいた。

ほんの少しがっかりして、だけどすぐに、ボンヌから離れたら状況が好転していくかもと考え直した。比呂の彼女として横にいられる、ということだけでもすごいことだもん。


『わかった……。比呂の言う通りにする』


悩んだ後、こくんと頷いた私を比呂は抱きしめてくれた。


『好きだよ。早く、皆に美羽とのこと、言いたいな』


腕の中から比呂を見上げたら、優しくキスを落としてくれた。


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