シンデレラを捕まえて
「とりあえず写真を撮って藤代さんに送付だな。穂波、時間あるんだろ? 昼飯でも食いながら打ち合わせしよう」

「あー、うん」

「美羽ちゃん、この椅子を撮影して、メールお願いできる?」


社長の問いに頷く。


「大丈夫です」

「ん。じゃあよろしくね。行くか、穂波」


さっさかと出て行こうとする社長を穂波くんが追いかける。


「じゃあ、よろしくお願いします。美羽さん」


私の方を見ることなくぼそりと言うと、穂波くんは後を追って出て行ってしまった。

まあ、そうだよね。当たり前だよ。

穂波くんの態度は、当然のことだと思う。きっと、彼の頭はすっかり落ち着いて、私に興味を失ったんだろう。
ただでさえ、続けて二度も逃げ帰った女だもの。呆れかえっているはずだ。

心がずんと重くなる、
分かっていても、やっぱり辛くなる。

あのネックレスを身に着けるのをやめていたら、買わなかったら、こんな思いをしなくて済んだかな。
その代わり、あんな満たされる夜を過ごすことも、なかったのだろうけれど……。


「美羽ちゃーん、デジカメ持って来たわよ。社長室の窓際が一番綺麗に撮れる場所だから、そこで撮影しちゃおう」


紗瑛さんがカメラを持ってきてくれた。私にカメラを預けて、椅子を抱える。


「穂波くんの仕事って丁寧よね。これは絶対、藤代さんも気に入ってくれるわよ」

「そうですね」


こんな椅子が自分の店に並んでいたら、と思うとワクワクするに決まってる。

ああ、穂波くんってすごいなあ。
曲線の綺麗な椅子をカメラのファインダーの中に収めながら思った。


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