シンデレラを捕まえて
「穂波! 持ってきてくれたんだろ?」

「うん。藤代さんのやつ」


穂波くんは一抱えありそうなくらい大きな紙包みを持っていた。嬉しそうに近づいた社長が「開けて開けて」と急かす。
電話を終えた紗瑛さんと玉名さんも穂波くんの手元を覗き込む。私だけが、数歩離れた場所からそれを見つめていた。

茶色の外装紙の中から現れたのは、一脚の椅子だった。

背もたれからアームの部分、脚までが一つながりになったような華奢なデザインで、濃いめの木目に品があった。座面には黒のレザーが張られていて、木材とよく合っている。

藤代さんの御主人の描かれたデザイン画が形になったんだ。私もデザイン画を見せてもらっていたので、すぐに分かった。
藤代さんの構想に限りなく近くて、それでいてどこか洗練された素敵な物だと思う。


「どうかな」

「いいじゃないか。うん、彼のイメージ通りだと思う」

「藤代さんは濃茶のレザーと書いてたけど、こっちの方がしっくりくるんだ。まあ、変えろって言われたら考えるけど」

「このままでいいと思うわよ。カウンターに使うゼブラウッドにもぴったりだもの」


紗瑛さんが言うと、玉名さんもそれに賛同して褒めた。穂波くんは「ありがと」と少しだけ照れたように笑って、ちらりと私を見た。しかしすぐに逸らされる。
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