MOONLIGHT



「レイ、とりあえず夕真ちゃんの家に行っててくれるか?明日もT大だろ?弁慶もいるし、俺まだかかるから、今日は夕真ちゃんちに泊まりな?」


え、将がそんな事を言うなんて珍しい。

私の時間があるなら、いつも一緒にいたいって言うのに。

何かいつもと違う。

だけど、ここは将の職場だ。

顔つきだって普段とは違う。

私は素直に頷いて、弁慶を抱いたまま立ち上がった。


「あ、レイ。弁慶は後で俺が連れて帰るから。」


将が慌てて弁慶を抱き上げる。

「え?夕真さんちでしょ?なら、弁慶は私がこのまま連れて帰るから。」


弁慶だって、いきなり私から離されて不満な顔をしている。


「いや、俺が連れて帰るから。」


将が珍しく言い張る。

何で?


「弁慶は私と帰りたいみたいだけど?」


そう言うと、将が困った顔をした。

そして。


「今回の俺の相手役の水沢リカちゃんが、犬好きで弁慶とまだ遊びたいらしいんだ。」

「は?…弁慶は私と帰りたいみたいだけど?」


弁慶よりその相手役の子に気を遣う将の気持ちがわからない。

将がため息をついて、私を見た。


「明日、初日なんだ。チームワークを乱したくないんだ。仕上がりがいいのに、一つのことで、崩れることもある。」


よくわからないけど。

弁慶と遊びたいという気持ちを無視すると、その水沢さんって子の気持ちが崩れるかもしれないってことなんだ。

はあ。

何か、納得できないけど。

今弁慶を私が連れて帰るとマズいってことか。


私はため息をつくと、ちょっと弁慶をかして、と手を広げて将に言った。


「レイ、わかってくれないか?」


将が益々困った顔をする。

そんな顔をさせたいわけじゃない。


私は首を横に振ると、弁慶に言い聞かせるだけだからと言った。





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