MOONLIGHT



「嘘じゃないよ。私、今鎌倉学院大学で教えているでしょ?」

『…ああ。』

「やっぱり、T大の学生とは違うんだ。」

『……。』

「オサムに勉強教えた経験が今役立ってる。」

『……。』

「国家試験の乗り切り方もオサムの時の事を参考にしようと思って。」

『ぶっ。くくっ…あはは…。何か、感謝されてるのに、非常にバカにされてるような気がする。』


ゲラゲラ電話の向こうでオサムが笑う。


そうだ。

私達の10年の終わりはこうやって、笑って終わりたい。


「オサム、いろいろありがとう。楽しかった。」

『…こちらこそ。すまなかった…いや、ありがとう。幸せになれ。』

「うん。オサムも幸せになれ。またいつか。」



いい別れだった。

色々あったけれど。

オサムとは別れてしまったけれど。

だけど、出会えてよかった。


いつの間にか、タバコを2本吸ってしまって、タバコがなくなってしまった。

芝崎にタバコを頼んでいた事を思いだし、キョロキョロとすると。


「わっ。」


芝崎が近くに立っていた。

無言でタバコのカートンを渡された。

直ぐに一箱取り出す。


「参った。スゲー女。自分を裏切った男と笑って別れられるなんて。しかも、エールまで送れる気持ちなんて…。」


芝崎が私の横に腰を下ろした。


「裏切ったって言っても、それがすべてじゃないし。いいこともあったし。」

「だからって。」

「それに、全部自分で選んだことだから。」

「え?」


私は芝崎に向き直った。


「だから、自分で選んだ人生なの。選んだ時、私が望む方を選んできた。だから、失敗も自分の責任。人生を選ぶって、そう言うこと。」

「……。」

「芝崎の事情はしらないけど、迷いがあるなら私をきっかけにするんじゃなくて、自分で望む方をえらびなさい。そのかわり、失敗したって、自分の選んだ結果。誰のものでもない、芝崎の人生だよ?」


私が常々思っていることを伝えると。

芝崎は大きくため息をついた。


そして。

両手をあげた。


「降参だ。レイさんには敵わない。」

「何だよ、それ。」

「だけど、自分の気持ちに気づくことができた。」

「それはよかった。」

「レイさん。」

「ん?」

「思いっきりふってくれてありがとう。」



芝崎は真面目な顔でそう言ったが、申し訳ない事に私は吹き出してしまった。





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