大罪
「これだけ居ればな。」
男は意に介さない。
冥府の鎖は罪人の重さを表す。

——タナトスが鎖を授かった時
神は言った。
『これからは、我とお前が裁くことになる。生死を分ける者……お前には、痛みを与える。』
『それが、“対価”ね。』
『そうだ。』
タナトスが触れる鎖は重みの代わりに痛みを伴うという神による呪いが彼女にかけられた。
永久に消えない呪い。
死なない限り、神が望まぬ限り。
普通、罪人が触れれば罪の重さが鎖の重さとして現れる。
複数人で冥府の鎖に触れれば、一番重い罪の者の重さになる。
その呪い以来、タナトスが触れさえすれば、重みは痛みに変わるようになった。

「久しぶりねぇ。サタン。」
「わざわざ、何の用だ。」
「あら、つれないわね。」
「貴様が来る時は碌な事が起こらない。」
「そうねぇ。」
クスクスと笑うと、タナトスは言った。
「この辺で飛び抜けて異質なものが無かった?」
「さぁな。異質とは全てに言える話だ。飛び抜けてとなると貴様の事だろう。」
「随分な言い草。」
「正当だ。」
サタンは不機嫌そうにした。
「……ここ最近、この辺りを彷徨いている奴が居る。それも、神の裁きを受けずに来た者だ。」
「やはり、ね。」
タナトスは考える素振りを見せた。
「恐らく」
「解ってるわ。」
サタンの言葉を遮り、言った。
「それでも、私は私がやるべきことをする。」
「無謀だ。」
「好きに言えばいいわ。」
タナトスは不敵に笑んだ。
「ねぇ」
そう話しかけながら、牢を開けて鎖に近付いた。
「貴方にお願いがあるの。」
「何だ。」
「此処から出してあげる。……その代わり、あの子をひとりにしないで。」
悲しげに笑むとそう言った。
「あの子を傷つけるのも殺すのも、私だけの権利だわ。」
そう付け足した。
「立ち向かう気か。」
「当然。」
タナトスは頷く。
「忠告はした。後は知らない。」
「わかっているわよ。」
そう言いながら微笑むと、冥府の鎖に触れた。
“Θε?? αγ?πησε(神は愛した)”
冥府の鎖は光を放つ。
“Και συγχωρ?(そして、許した)”
その瞬間、タナトスの全身に痛みが走った。
「ぐっ……うっ……」
唇を噛み締めて耐える。
(神に逆らった罰……か。)
痛みに耐えて口角を上げた。
「ふふふっ」
(……上等よ。痛みには慣れっこだわ。)
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