大罪
タナトスはゼロより大人に見える風貌を強調する仕草で言う。
「貴方と私は同じ。見ている人がどれだけ生死に執着しているか、私や貴方をどう見るかで姿はいくらでも変わるわ。」
タナトスがそう言うと姿が子供になった。
「……要は見せ方ね。」
「むぅ。」
再び女性の姿になったタナトスにゼロは頬を膨らませた。
「構わない。この姿の方が膝に乗せやすい。」
「むしろ、こんな外見で膝に乗せられているなんてねぇ……気持ちわるいわ。ふふふふふ!」
「むぅー」
クスクスと馬鹿にするタナトスにゼロが拗ねた表情になる。
「そう言うな。タナトス。」
「ふん。まぁいいわ。泣かれても面倒だもの。」
タナトスは目を細める。
「それよりも。」
そう言いながら傍の鏡を覗き込む。
二つの鏡にはそれぞれ、浄土界・地獄界の世界が見える。
「地獄界がおかしいわ。」
「む?」
「む?」
神が首を傾げるとゼロも真似をした。
「侵入者がいるみたい。」
「……そういうのはタナトスに任せている筈だが。」
「それが、私にも手に負えないのよ。」
タナトスが悔しそうにする。
「姿が見えたかと思えば消えてしまう。」
「その者は何が目的なのだ。」
「知らないわよ。」
そう言うと、そっぽを向いてしまった。
「もしもの時の備えはあるべきと思うわ。」
そう言って鏡に触れた。
鏡はタナトスを認識すると、歪む。
「少しは危機感を持ちなさい、と忠告してやっただけよ。」
嫌味を言って去った。

——地獄界
此処には“裁きの間”と呼ばれる空間で神により裁かれた者達が居る。
蠢き、血に飢えたならず者ばかりだ。
(相変わらず、ろくなものはない。)
タナトスは冷徹な視線を亡者に向けた。
その奥に牢がある。
それに繋がれた罪人。
鎖は白く不気味に光った。
タナトスが亡骸と共に、頭に付けている冥府の鎖と同じものだ。
「気分はどう?」
嫌味を込めて罪人に話しかけた。
狼の耳にユニコーンの角を持つ男。
その者は不機嫌そうな表情をした。
「貴様は相変わらず悪趣味な質問をする。……この状態で気分が良いとでも?」
「ははっ、許しを乞えばいいのよ。」
「許されざる者に言われたくはない。」
「私はこの姿を敢えて受け入れているのよ。貴方と違って。」
男にタナトスはニヤリと笑った。
鎖を引きずる男の地面は重みで抉れる。
「罪の重さにも随分と慣れたようね。」
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