大罪
「……きえなさい。こないで!!!」
目を閉じ、耳を塞ぎ、蹲った。
「う、うぅ……」
“イト、オシイ……愛オシイ———”
「あ、あぁ——」
声に出せない叫びを堪え、唇を噛んだ。
「タナトス、タナトス!」
ゼロに答える余裕もない。
震え、怯えていた。
容赦なく、骸が襲う。

突然、誰かが骸の山からタナトスを抱き上げた。

「——っ、」
泣き出しそうな顔でその相手を確認した。
「こうすれば、何が来ても問題ない。」
子供を抱っこするようにしてサタンが言った。
「あ、あ……」
“ありがとう”と言おうとして、言葉にならなかった。
ぎゅっと服を掴み、縋るように胸板に頭を押し付ける。
「う、あ、うぅ……」
呻きしか出ないタナトスの頭にそっと触れる。
瞼の裏に焼け付いた景色。
冷たい檻
白い鎖
燃えるような色
——地獄
其処に誰かが見える。
“愛オシイ——”
酷く冷たく、優しい声で呼ぶ声。
続きは聞こえず、唯、予測が浮かんだ。
「おか、あ、さん……」
呟いて、現実になったようで。
予測は確信へと変わったのだろう。
証拠はない。
しかし、宝石を見つめれば深く確信した。
「それが……私の咎。」
雫が落ちて、意識が消えた。

少しすれば、其処は研究所だと解った。
「目が覚めたか。」
サタンが頭を叩いた。
無論、撫でたつもりだ。
「タナトス……」
ゼロはおずおずと見つめた。
「余計なお世話よ。」
タナトスは差し伸べられた手を払った。
「タナトス。」
固い声がする。
藍畑だと直ぐに解った。
「お前には誠に残念だが……“裁きの間”へ行ってもらう。」
「ふぅん。ニンゲンの裁きの間、か。」
「此処ではそう呼んでる。悪霊憑きか判別する場所だ。」
「待って。」
藍畑の言葉を女性が遮った。
「レヴィ。決定事項だ。」
女性に淡々と言う。
「未だ、そうという証拠が不十分よ。」
「これを見ろ。」
そう言うと、書類を突きつけた。
「以前は無かった部分で夢魔と成分が一致している。故に、悪霊が憑いた可能性がある。」
「でも!」
「去れ。邪魔だ。」
レヴィに藍畑は聞く耳を持たない。
「何より、あの後……」
陸奥がレヴィの背後から言う。
おそらく、タナトスが意識を手放した時だろう。
「宝石は溶け、タナトスの体内に吸収された。」
そう言うと、タナトスを見る。
「そう。」
驚いた表情にならないように平静さを乱さずに言う。
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