大罪
「つまり、悪魔の1部が私の中にあるということね。」
タナトスは胸に手を当てる。
「……そう。」
納得したように、藍畑を見る。
「好きにするといいわ。人間に、私を殺すことなんて出来やしないのだから。」
「タナトス!」
ゼロは縋るように呼ぶ。
「いいわ。」
タナトスはどこか悟ったように答えた。
「さぁ、連れていきなさい。」
挑戦的に言う。
「素直に従うことは良い心掛けだな。」
「抵抗するのは、無駄だわ。」
(逃げれば、どんな手を使っても追うに決まってる。)
そう言って、歩き出す藍畑に付いて行く。
「貴方はサタンと居なさい。直ぐに殺しに行くわ。」
タナトスは心配そうなゼロに言う。
「忘れないで。貴方を殺すのは、私よ。」
藍畑と共に去っていった。
「……」
ゼロは泣きそうな表情をする。
「天空宮さえ元に戻れば、強制送還できる。それまでは此処に居る以上、従わねば面倒だ。」
「でも」
「大丈夫だ。言っていただろう。人間には殺せない。」
サタンはゼロを撫でたつもりで叩く。

それから暫くはゼロとサタンも監視され、外へは出れなかった。
「一刻を争う。悪魔の力はあれひとつではない。」
「それに関しては我々の手で回収を進めている。」
陸奥は取り付く島もない様子で答えた。
裁きの間と呼ばれる場所の入口までは来ることを許された為、ゼロを連れて行く。
僅かに声がする。
それは、誰の声かはわからない。
「いやぁああああああ!!!!!」
はっきりと、聞き覚えがある声がした。
「タナトス!」
“凍れ”
「きゃっ!」
中に行こうとするゼロの足を陸奥は凍らせた。
「タナトスになにしたの!!」
ゼロは叫ぶ。
「我々の邪魔をするな。」
「答えて!」
「吾輩が知るわけがない。」
陸奥は見下ろす。

——裁きの間
そこには血の匂いが充満していた。
辺りには死体。
死体はミイラのようにされて壁に磔にされている。
「悪趣味ね。」
壁の死体のように、タナトスを磔にする裁きの間の人物に言い捨てた。
その人物は藍畑ではなく、黒い影だ。
正確にはそう見えるだけで、黒子のように全身黒づくめの人間だろう。
「痛みなど、怖くもなんともないわ。」
杭で壁へ手の甲を貫かれながら言う。

それから何ヶ月が過ぎたかわからない。
時間がないのにとタナトスは気持ちが急く。
「いい加減、正体を見せたらどうだ?」
藍畑が現れ、嗤う。
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