NIKU
泉の中の小さな物体
透明ではあるけれど、決して綺麗とは言えない泉の中から 、ゴボゴボと聞いたことのない音がする。
軽い咳払いのような音の主は、わずか0.1ミリ程度しかなく米粒のような形をしている。泉の中でこれから日々成長をしていく小さな物体の瞳にうつる世界はなく、ぽちゃぽちゃと音のする泉の中での暮らしは、期限がある。


「眠い」とか「眠くない」とか、意識はない。運ばれてくる栄養素だけを頼りにし、一日の大半は眠りについている状態である。


大量の泉の液体を飲み過ぎたのか、ゴボゴボという音をたてながら、小さな物体が揺れる。一瞬、溺れているのかと思えるが、溺れるはずはない。なぜなら、浮遊状態である物体は、そこが居心地がいいはずである。
その物体は、まだ小さな卵が二つ、やっと融合した状態であるから、泉の中を自由に泳ぐことができるのだ。


水面の中を生きるというのは、魚と等しい生活でもあるが鰓があるわけではない。どうやら、呼吸は、外部との繋がりからなされているようである。


「ゴボ、ゴボ」
またしても、物体から音がする。
栄養が運ばれるパイプから、よからぬものが運ばれてきているようだ。
成長の糧として大切な栄養が運ばれるパイプから、かすかなキナ臭さがする。透明な泉がわずかに濁りを見せ始める。

「ゴボ、ゴボ」


「まずい」と言いたげな奇妙な音を発する物体からは、目も鼻も口も見極められず、手も足も判明がつかないほどであった。





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