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ハルの手を取ってふと気が付いた。

「ハル、荷物は?」

家から出る時に大きな旅行カバンを持っていたはずなのに、出勤の時からそのカバンは持っていなかった。

「……ロッカーに置いてある」

「会社の?」

「ううん、コインロッカー」

ハルは旅行カバンを駅のコインロッカーに入れていた。

ロッカーに入れるところを寺嶋に目撃されて、家を出てきたことが知られてしまったらしい。

それを聞いてほっとした。

寺嶋の所に行くわけがないって思ってはいたけれど、それでもそう聞いて、胸の奥で燻っていた僕の嫉妬心は少し落ち着いたようだった。

「後で取りに来るからいい」

「いいから、もう遅いからうちに泊まって。何もしないから」

もちろん、何もしないわけがない。

でもハルは僕を信じて大きなロッカーからカバンを取り出した。

「僕が持つよ、それ」

「いいよ、私が勝手に持って来たんだから」

「いいんだよ、僕が持つ」

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