翠の墓守
第壱章
第三話


翠色の草原に悪夢が訪れた。

ミドリの背後で何色かもわからない布を纏った黒い影達の一人が商品を掘り起こす為のシャベルを大きく振りかざす。
「はっ…はやくっ!!」
マチがそう叫んだのも既に遅かった。
ミドリの脳天を確実に狙ったシャベルが勢いよく、降り下ろされた。

「!?」

はずだった。
ミドリのおでこにはたんこぶが出来るか出来ないかの衝撃しかなかった。
シャベルはというものの、敵に微かな攻撃をしたまま、動かない。
動きが、止まったのだ。墓荒らしをよく見ると、後頭部には見慣れた長刀が刺さっていた。
「あーもう!おしゃべり何てしてるから、こうなるんです!」
刺さっていた長刀が勢いよく抜かれた。
マチとミドリはそれを眺めていることしか出来なかった。
「しっかりしてください!全く!」
愚痴をこぼすように少女は長刀を勇ましく構え、二人の方を見ずに墓荒らしと対面した。
「見張りの意味が、無いでしょう!!」
一層、風が強くなった気がした。
「そうだったね」
マチは腰のベルトを伝って長刀を掴むと、自分の身の程より大きな刀身を鞘から出した。
「ぼくのやりがいを、失うところだったよ」
刀身を完全に抜くと、マチの背後から加勢にきた墓守達が到着して、連なっている。
「ありがとう」
マチの言った言葉が合図となり、一斉に墓荒らしへと刀を向け、走る。

墓守も墓荒らしも、元は人間だ。
ミドリも以前までマチのいう何もない暗闇で泣いていた。
(先輩の言う通りだ…)
一人草原で佇むミドリも、腰の長刀に手を添えた。
(墓守の仕事は、ひとりぼっちより、ずっとマシだ。化け物と戦い続けていようが、死体を守り続けていようが…)
翠色の瞳に決意を固めて。
(この事実だけは、変わらない気がした。)

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