形なき愛を血と称して

ーー

薬がある場所は、リヒルトの寝室だった。

隠さずに、棚に陳列するあたり、召喚した吸血鬼がこぞって奪いに来ようとも対処出来る自身の力量が高いと示唆しているようなものだ。

実際、この薬が今まで盗まれたことなどない。盗むものなら。

「ワン!」

家の番犬に吠えられ、トトは落としそうになった小瓶を何とか持ち直す。

二階の窓からリヒルトがいないことを確認し、泥棒らしく窓から侵入。そっと持って行くつもりだったが、そう易々と事が運ぶわけもない。

現時点で、これがトトではなく、別の誰かだとすれば、ラズにかみ殺されてもおかしくない状況だった。

「やっぱり、戻ってきたねぇ」

そうして、リヒルトに笑顔で迎えられることもない。

「リヒルトさん……」

その顔を見て、図らずも安堵してしまうトトだが、手中の小瓶を慌てて隠す。

「あ、あの」

「いいよ、あげる。トトちゃんが欲しいなら、何でもあげるよ」

泥棒の真似事をしても、叱らないリヒルトが近付いてくる。

離れなきゃいけないと分かっていても、いざ、愛しい人を前にすれば、心が揺らいでしまった。

「薬だけじゃなくて、甘くて美味しいものあげようか。お腹空いたでしょう?」

晩ご飯には丁度いい時間。
てっきり、また血を飲まされるのかとトトは身構えたが、リヒルトが差し出したのはホットケーキが乗ったお皿だった。

「え……」

美味しそうに焼きあがったホットケーキ。
生クリームのデコレーションに、たっぷりのグランベリーソースがかかった一品だった。

「リヒルトさん、これ」

「トトちゃんのために作ったんだ。僕の傷から血を飲むのは嫌みたいだったからねぇ」

普通の食事でも生きていけるトトにとって、これこそが望んでいたことだった。

分かってくれたんだと、ホットケーキのお皿を受け取る。

「一階に行こう。まだ作り途中だけど、色々と準備しているんだ。作り出したら止まらなくなってねぇ。どれも美味しいはずだから、まずはこれから食べてよ」

食事を促す彼の言うとおりに、ホットケーキを口に入れる。

甘い味。それは間違いないのにーー

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