ウェディングドレスと6月の雨

 給湯室で2人で立ったまま無言でコーヒーを飲む。別に嫌な緊張感とかはなくて、それよりも暖かい空気感すらあって、何にも言わずに2人で会議までの時間を過ごした。


 会議開始10分前になると皆が続々と入室してくる。そして開始前から席に座っている穂積さんを見つけて会話を瞬間的に会話を止めた。でもプレゼン本人がいることで安堵するのか、すぐに他の人との会話を続ける。

 私はコーヒーと資料を配りながらプロジェクターの準備をした。前回のプレゼンにも使用したパソコン。


「アンタ……いや、成瀬」
「はい」
「パソコン、大丈夫だったか?」
「あのあとは何の不具合もなくて」


 クスクスと穂積さんは笑い始めた。


「あの……」
「いや、飼い主に似ると思って」
「え?」
「雷が苦手なところ」


 それを聞いた周りの社員たちもクスクスと笑い出した。


「穂積さん……もう」


 いつもギスギスしている会議室も少しだけ和やかになった。そして私の心も。だって、アンタから成瀬に呼び方が変わったから……。

< 172 / 246 >

この作品をシェア

pagetop