ウェディングドレスと6月の雨
 開始時刻10分前になり、続々と参加者が入室してきた。営業部、広報室、製品部の代表たち。比較的年齢層は若め。資料を渡してコーヒーを配る。皆は雑談に花を咲かせていた。話題は時期的にボーナスのこと。賑やかだ。最後にやってきた営業部長が着席して私は給湯室に小走りに行き、急いでお茶を入れた。小さな盆に寿司屋の大振りな湯呑みを乗せて会議室に戻ると、ほとんどのメンバーが出揃ったのに穂積さんの姿が見えなかった。お茶です、と営業部長の前に湯呑みを置く。また今日も遅刻か、と部長が呟く。穂積さんのことだろう、部長の視線は空席に向いていたから。

 カチャリとドアの開く音がした。私は盆を小脇に抱えて振り返る……穂積さんだ。その瞬間に室内がシンとした。無愛想で威圧感のある彼に皆が萎縮する。でも私は何故かホッとした。ワンピースを返すという義務感からかもしれない。

 会議は順調に進んだ。順調、というよりは淡々と、と表現したほうがしっくりきた。他社との競合、プレゼン順は当日のくじ引き、製品の画像、資料、納入金額などが報告され話し合われる。私はそれを聞きながらパソコンに文字を入力していく。時折、穂積さんを盗み見る。彼もタブレット端末に文字を入力しているようだった。積極的に発言はしない、だだ寡黙に手を動かしてる。質問があれば受けて答えて、多くを語らない。そんな印象だった。

 あまり話さないだけで、仕事に対しては真面目な人なのかもしれない。時間にルーズなのは営業先を放っておけずに遅刻するからなのかもしれない……。


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