ウェディングドレスと6月の雨
 会議は問題もなく無事に終わる。皆が席を立ち、会議の資料をまとめたり手帳を閉じたりしている。私も会議が無事に終わった安堵感から、ふうと息を吐いて伸びをした。このあと片付けもある。その先に自分の荷物と紙袋が見えて私は穂積さんの姿を探した。ちょうど会議室を出て行く彼の姿が見えて、慌てて紙袋を持ち、彼を追いかけた。

 エレベーターホールに向かう穂積さんの背中に声を掛けた。


「穂積さん。あの」
「何」


 通路で立ち止まった穂積さんは振り返る。私は小走りで駆け寄った。そして彼は私はを見下ろす。一気に緊張の度合いが高まった。


「あ……ありがとうございました。お返しします」


 私は手にしていた紙袋を軽く持ち上げた。その中を穂積さんは斜めに覗き込む。クリーニングのビニール袋に白い布地が見えて、彼は中身を理解したのか眉をひそめた。


「いらない」
「でも」


 穂積さんは私に1歩近寄った。そして間近で私を睨んだ。威圧感……。私はドキリとして見つめていた穂積さんの顔から目を逸らして真ん前を見る。ブルーの格子柄のタイ、ボタンダウンのシャツ。彼の喉元が動くと同時に彼の腕も動いた。

 穂積さんは私が握っていた紙袋をつかんでグイと引き上げる。紙袋の持ち手が擦れて私の指は熱くなった。穂積さんが受け取ってくれた……と安堵したのも束の間。


「……いらないって言ったろ」


 低い声で穂積さんはボソリと言い放つとスタスタとエレベーターホールに向かっていった。そして途中で立ち止まる。彼の横にはゴミ箱。そこに紙袋を投げ入れた。


「穂……」


 そのまま振り返らず歩いていく。私はそれを呆然と眺めていた。


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