ウェディングドレスと6月の雨
 パソコンの入った重い鞄を持って汗だくでコーヒーショップに着くと、穂積さんは先に来ていた。


「え……?」


 私は一瞬、暑さを忘れた。ガラス張りの店内、歩道に面したカウンター席でスーツ姿の男性と話している……にこやかに。


「……」


 だって。穂積さんはあんな顔をするのかって、私は驚いた。あんな明るい表情、笑顔。屈託のない、爽やかな顔。ポカンと立ち尽くした私に気付いた穂積さんは、隣にいた男性に会釈して席を立った。そしてショップを出て私の前に来ると私を上から睨みつける。


「おはよう」
「おは……ようございま、す……」
「大丈夫か?」
「はい。え……」


 穂積さんは私の鞄を取り上げた。そして顎でしゃくる。再び中に入ると今度は奥のテーブル席に座った。シート席。いつもの無愛想な穂積さんにホッとしつつも、何故私には無愛想なのか少し胸がチクリとした。


「雷」
「え?」


 昨日、摺り合わせを終えたときには雷も雨も止んでいた。


「だからパソコン、大丈夫だったか?」
「あ、はい。今朝も確認しました」
「そうか。ならいい。何か飲むか?」
「はい」
「キャラメルマキアート、キャラメルソース増量?」
「はい。何故分かるんですか?」
「あいつもそうだったから」


 穂積さんはそう言うと席を立ってレジに向かう。

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