ウェディングドレスと6月の雨
 本当ならこの大規模なコンペも担当にはなりたくなったろうに。


「この会議で今回のコンペ企画室は解散になるが、このあと隣のイタリア料理の店を貸切で予約してある。社長が一席設けてくれた。参加出来るものは18時半から慰労会だ」


 会議室の中がざわめいた。広報室の高田さんが挙手をして発言する。


「部長、それはひょっとして」
「ああ。社長のおごりだ」


 うわあ、と一斉に声が上がる。社長から一般社員への労い、こんな事は数年に一度。その滅多にないご褒美に皆が喜んだ。この会議が穂積さんとの最後の接点だと思っていた私は少し嬉しくなった。僅か数時間だけれど、穂積さんと一緒に過ごせる。

 私はチラリと穂積さんを見た。


「……」


 穂積さんは焦げ茶の革の手帳を広げて見つめている。そう言えば穂積さんの手帳は真っ黒なほどに字で埋め尽くされていた。ひょっとして今夜も……。穂積さんはパタンと手帳を閉じた。そして穂積さんの肩がストンと下がると同時に息をふうっと吐いた。

 皆が片付けを始めて終えた者から会議室を出て行く。にこやかな雰囲気。隣のイタリア料理店なら、私達の手の届かない年代物の赤ワインも振る舞われるだろう。

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