ウェディングドレスと6月の雨
 完全に日も落ちて外は夜景に変わった。小さな街の夜景、派手さはないけれどキラキラ光る街灯やネオンは子供の頃に持っていた宝石箱みたいだった。ビーズ、ガラス玉、海で拾った貝殻、プレゼントについていたリボン。どれ一つとして高級なものはないけれど、大切な宝物だった。

 この景色も宝物にしよう。穂積さんと会えなくなっても、無理に忘れることはない。いつか風化して新しい恋を見つけるまで。

 軽食を頼んでお腹を満たす。〆のエスプレッソを飲んで時計を見るとまだ19時。


「お開きにしようか」
「……はい」


 まだ帰りたくない。でもこれ以上思い出を増やしても辛いだけだ。自分にそう言い聞かせる。席を立ち、会計を済ませる。穂積さんは俺が呼び出したから、と全額払ってくれた。穂積さんの打ち上げなのに。

 エレベーターを降りる。外に出る。来た商店街の道を駅へ戻る。もう外は暗かった。シャッターを下ろした店ばかりになっていた。日曜の人の疎らな改札を抜ける。この先、穂積さんとは別のホームになる。

 そのホームに上がる階段の前。


「ありがとうございました」
「いや」
「素敵な景色とカクテル……宝物にします」


 クスクスと笑う穂積さん。


「次はいつ?」
「え?」
「商談は成立してるよな」


 私は意味が分からずキョトンとした。

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