ウェディングドレスと6月の雨
「じゃあ」
「ありがとう。アンタのおかげだ」


 コーヒーを飲む穂積さんの横顔はすっきりしていた。窓から差し込む朝日のせいかもしれない。でも一枚皮を削ぎ落としたような、一回り顔を小さくさせたような、ちょっと不思議な感じだった。


「良かったです」
「ああ」


 私もコーヒーを啜る。薄めのコーヒーは甘さを強調した。甘いコーヒーは卒業しろといわれてるみたいだ。何だかスッキリした。穂積さんのおかげかもしれない。


「忘れられそうだな」
「神辺さんをですか?」
「今は無理だけど、少しずつ忘れていく。変な言い方だな」
「いえ……そんなことないです」


 そんな一皮むけた穂積さんに、私は少し胸のざわつきを覚えた。だって、神辺さんを忘れるまでそばにいる、という約束で友達ごっこを続けてきた。穂積さんが神辺さんを忘れると言った今、私の存在価値はなくなった、ということ。

 でもいい。穂積さんが立ち直ってくれたなら。心の底から明るくなってくれたなら。穂積さんが入れてくれたコーヒーを飲む。甘いコーヒー、私も卒業しよう。

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