ウェディングドレスと6月の雨
「大丈夫か?」
「はい」
「昨夜は可愛かったなあ、アンタ」
「え……?」
「色っぽい声出して」


 咄嗟に自分の体を見下ろした。ブラウス、スカート、ストッキング……全て着ている。強いていえばブラのみホックは外れていたけど、寝返りを打つうちに外れたんだろう。ケタケタという笑い声は大きくなり。


「それも冗談。アンタ、真に受けるタイプなんだ」
「もう……」


 からかわれて顔が熱くなった。俯く。その視界にマグカップ。立ち上る湯気。コーヒーの香ばしい匂いが鼻を突く。


「飲めるか? 薄めにしたけど」
「はい……」
「ありがとう」
「あり……?」


 穂積さんはマグを持ったままベッドの縁に腰掛けた。


「穂積さん?」
「吹っ切れた」
「吹っ切れた?」
「昨夜、飲んで泣いたら吹っ切れた」


 コーヒーを一口飲み、熱かったのか穂積さんは目をきゅっとつむった。


「神辺さんも母親なんだと思ったら、もう手の届かない人だと理解出来たっていうかさ。無事出産して旦那と元サヤならそれが一番だってようやく体で理解した」

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