私がお嬢様をやめる時
パーティーの男
「菜々穂お嬢様のような
スラッとしたスタイルにはやはり
このドレスがオススメでごさいます。」


煌びやかなドレスが
たくさん並ぶ店内で
恭しく私にドレスを選ぶ店員。


スラッとねぇ…
私も清美と豊胸コースかな…


私は身長もそこそこあり
足の細さと長さには自信がある。
でも、男ウケするのは
やはりあの
玲奈の豊満なスタイルだと思う。


店員が勧めてきたのは
大好きな黒の
シックなロングドレスだった。
大人っぽくて気に入った。


「水嶋、どお?」


試着室から出て水嶋を呼ぶ。
どうせ「お綺麗です。」
って言われて
おしまいなのはわかってるけど
一応聞いてみる。




「他のお色がよろしいかと…」



「え?」


予想外の言葉に目を丸くする。


「今季の流行色は黒でございます。
黒を選ぶ方が多いのではないかと…」


…流行色までチェック済みなわけ?


「こちらはいかがでしょう。」


そう言って水嶋が勧めて来たのは
全く違うAラインのミニドレスだった。
黒の生地に水彩画のようなタッチで
真っ赤な大きい花々が描かれている。

その花々の隙間から少し見える黒が
赤い花達をすごく強調している。


「なんで水嶋に
ダメ出しされなきゃいけないのよ。」

私は捨て台詞を吐いて
水嶋の手からドレスを奪い取り
とりあえず試着室に入った。

私は普段パーティードレスといえば
背の高さが生かせる
ロングドレスを選ぶ。
こんなミニドレス
子供っぽくて嫌なのに…


そう思っていたが
着てみると意外に気に入った。
大きな花柄がAラインの幼さを
上品に消してくれている。


捨て台詞を吐いた手前
気に入っただなんて
そんな事恥ずかしくて言えない。

私は気に入ったことを
顔に表さないように
不機嫌さを装い試着室から出る。


「まぁ!大変お似合いです。
綺麗な脚がとても強調されますね。」


店員の褒め殺し攻撃に合う。
本当はすごく嬉しいんだけど…

チラッと水嶋を見ると
やはりいつもの無表情で


「大変お美しいです。」


そう言われた。
このドレスを
認める理由が欲しかったので



「そ…そう?
あなた達がそう言うなら…」

と、仕方なくあ・え・て仕方なく買う
という程でこのドレスに決めた。


私は素直じゃない。
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