幸せの花が咲く町で
ば、馬鹿な……



私が、堤さんのことを好きだとでも……?



堤さんはご結婚されていて、しかも、奥様は、華やかで綺麗で経済力もあって明るくて……
花に例えれば、大輪の薔薇かひまわりのような人。
それに引き換え、私はツリバナ……
その存在さえ、知る人の少ない地味な花……
端から相手にもなりゃしない。



そんなことはわかってる。
だから、好きになったりしない。
堤さんとは、お花とお料理だけの縁。
友達ですらない、言ってみれば、先生と生徒みたいなものだもの。



「……篠宮さん?どうかされましたか?」

「……えっ!?あ、すみません!
つい、ツリバナのことを考えていて……」

本当のことなんて言えるはずもないから、私は咄嗟にそんな嘘を吐いた。



「さすがは篠宮さんですね。
僕、この花が何なのかわからなかったんです。
それで、お店の人に聞いたら『ツリバナ』だって教えてくれて……
図鑑で調べたら、なんだかすごく興味がわいてきました。
うちにも植えてみたいなって思ったりしてます。」

「堤さん……そんなにツリバナがお好きですか?
ツリバナの実は面白い形をしてますから割と人気はありますが、花はとても地味ですよ。
小さいし、色もぱっとしないしよく見ないと見逃してしまう……
誰にも振り返られることのない花なんですよ。」

私はツリバナに自分自身を重ね、いつの間にか感情移入して熱くなっていた。



「だとしたら……そんな花をみつけられたのはラッキーだと思いますよ。
誰も振り返らないものがつまらないものだとは限りません。
密やかに咲いているものの中にも、素晴らしいものはたくさんあると思うんです。
このツリバナだって、ほら…この形……すごく可愛いと思いませんか?
この丸みを帯びた花びらなんて特に…たおやかで女性的ですよね。
色だって確かにぱっとしてはいないかもしれないけど、ぼかし方が着物みたいで素敵だなって思いました。
それに……目立たない花だけど、それがみんなの興味を引く実をつけるなんて、すごいことじゃないですか。
あぁ、話してたらますます実物がほしくなって来ました!」

嬉しくて涙がこぼれそうだった。
堤さんは単にツリバナのことを話されただけなのに、まるで自分のことを言われたような気分になって……


地味なツリバナのことをそんなに誉めて下さった堤さんのことがありがたくて……



「あ、そろそろ、お花の準備をしないと……!」

その場にいたらきっと泣いてしまうから、私はあわただしくそこから離れた。

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